fixion

いま、部屋のモニタは音も立てずに静かに発光している。そのまえで、キーボードのうえにある二つの手は、宙に浮いたような姿勢のまま、固まっている。その片方の手の指先には、一本の白い紙巻きの煙草が挟まっており、そこからさらに天井に向かって白く細い幾何学的な直線が描き出されている。それとは関係なく、キーボードを叩く断片的なリズムが左右から立て続けに響いては停止し、その合間を縫って、壁の向こうから、誰かの低い咳き込む音。それがいくつか、距離を置いて届く。あとはかすかにマウスのクリック音、頭上から空調の作動音、ちいさい部屋を清掃する物音。そしてその壁の向こう、ビルのその向こうから、列車の走行音がそれらを割るようにして入り込み、次第に減衰していく。
モニタは発光していて、そこには文字と日付から構成されたようなものが浮かんでいる。



手は宙でとまっている。その向こうに、小さなモニター、キーボード、そこを走る指、その隣にはガラスのコップがあり、底にうっすらと水が溜まっている。
その隣には、たくさんの冊子が乱雑に折り重なって散らばっている。冊子、もしくはビラ、あるいは何かの紙切れのようなもの、それと小さな紙切れと棒でつくられた小さな目立たない旗のようなものが置かれている。
冊子やビラには、とくに一貫した特徴はなく、ただどこかの演奏会やダンスパーティー、何らかの朗読や雑多な酒宴や祝宴についての日時と場所を記した文字が踊っている。そのいくつかは、すでに誰かの手で折り曲げられ、あるいは粗雑に鞄のなかに放り込まれたせいで皺がより、汚れている。
これらの多くが、この数日のうちに集められたことを、おそらくあなたは知っている。




目の前のモニターには何かが映りこんでいて、その周囲を、いま不規則なリズムが左右から、まるでキーボードを打つような速度で反復しつづけている。そのリズムは、壁の誰かの低い咳き込む音やマウスのクリック音、頭上から空調の作動音、ちいさい部屋を清掃する物音、そして遠くの列車の走行音と入り混じった、別の律動に変換をつづけている。
けれどその音を、あなたは聴くことができない。けれどそのモニタは、たぶん今あなたが見ているのと同じテキストをつくりだしている。








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